バカラの類まれなクリエーションであるオートクチュールコレクションを再解釈することは、メゾンのクラフツマンシップを歴史と祝祭を通じて体現することです。精巧なディテールのエクラ・ド・ルミエールや、清廉なルフレ・グラフィックといったクリエーションは、その時代やムードへと私たちを連れ出します。

エクラ・ド・ルミエール クープ

ゴシック様式の大聖堂のロザース(バラ窓)を思わせる、精緻なデザインのクープ。


クリアクリスタルに赤いクリスタルが重ねられ、その上に施された、魔法のように複雑なカットが生み出すシンメトリーの美。バカラの卓越した職人の手でカット装飾が全面に埋め尽くされています。

この作品のオリジナルが披露されたのは1909年にナンシーで開催されたフランス東部国際博覧会でした。その頃にはすでに、バカラの高度なカットの技術や芸術性は広く知られ高く評価されていましたが、それでもなおバカラは、クリスタルをキャンバスとして、多彩なモチーフを表現する新しいカット装飾のレパートリーをさらに開発し、このように美しい作品を各地の博覧会に出品し賞賛を受けました。

この作品を覗き込むと、立体的に咲き誇る大輪の蓮の花、あるいはつむじ風、美しいバラなど、人によってさまざまな景色が見えることでしょう。あるいは、このメゾンを新たな高みへと導く羅針盤が見えるのかもしれません。

ルフレ・グラフィック クープ

明瞭なフォルムとコントラストの強さが美しく洗練された作品。


赤いクリスタルは、バカラが開発した独自のプロセスによるもので、溶解したクリスタルに24カラットの金粉を配合し、成形後に再焼成する事で発色させます。

パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックなどキュビズムの芸術家たちが既成の美の基準に革命を起こしていた時代、バカラもまた、その素材の特性と高度な職人技術を使って新たな美の表現に挑み世界を魅了していました。当時バカラのアーティスティック・ディレクターであったジョルジュ・シュヴァリエは彼の想像力に当時のトレンドを調和させ、新たな作品を次々と発表しました。

ダイナミックに立ち上がるフォルム、幾何学的な装飾、規則的なラインやアングルで構成された、まるでキュビズムへの賛歌のように前衛的なこの作品もその当時デザインされ、オリジナルは1925年パリ装飾芸術博覧会に出展されました。モダンアートの愛好家は、この作品の一見シンプルなデザインに「狂騒の1920年代」のきらめきを感じ取り、高く評価することでしょう。

エクラ・ド・ルミエール ベース

万華鏡、あるいは細密なフレスコ画のようなこの作品。ひとつひとつの装飾に見入るとまるで催眠術にかけられたようになるのは、それが職人の人並外れた繊細な手技で施されているからです。


デザインには元の厚みの十分の一の薄さに到達するまで深くカットされる部分もあり、それはまるでクリスタルをかすめるか愛撫するかのようなジェスチャーで施されます。そのようにして、植物の茎のようなカット、斜めに交差するベヴェルカット、丸いポンティカットや楕円形のオリーブカットなどさまざまなバリエーションの装飾が満載に施されたこの作品は、手にすると驚くほど軽く、どれほど多くのカットが細かく施されているかという事が分かります。

この作品はブラックとクリアという、昼と夜ほども違うコントラストの強いカラーで表現する事が大きな挑戦となりました。対極にある性質の素材を同時に操る事、カットラインに曖昧さやゆらぎの入る余地がないという格別な難しさがあり、完成された作品はバカラの職人が持つ高度な技術を証明しています。

ルフレ・グラフィック ベース

最初の芸術的なひらめきから水彩や鉛筆を使った最初の下絵、そしてクリスタルを成形する工程からダイヤモンドホイールを使ったカット、最後の仕上げまで。この作品はバカラの制作技術のすべてが込められています。


まず、作品に際立った魅力を与えるブラックとクリアクリスタルの被せの工程では、バカラの職人がクリスタルという素材の特徴を熟知している必要があります。またゆがみのない楕円形のフォルムは成形する際に使う鋳型を多くのパーツで構成し精密に作る事によって実現されます。

鋳型の中での吹き成形、被せ工程の後、作品はホイールでカットを施すプロセスに移ります。長方形の角柱を浮かび上がらせる溝の部分を、潔く正確なラインで彫刻する工程を、職人は長時間集中して一気に行います。そのプロポーションが完璧なバランスに達したとき、そこにはクリスタルと光が生み出す驚くべき鏡面効果が現れます。

1930年に制作されたオリジナルに現代的な解釈を加えたこの作品は、何世代にもわたる職人技術の継承と、バカラの大胆なデザインの系譜を示す一本の線のようです。

エクラ・ド・ルミエール デカンタ

まるでサファイアの川がその曲線に沿って流れているかのような、芸術的なジュエリーを思わせる特別なデカンタ。


クリアにブルーのクリスタルを被せ、宝石の粒のようにブルーを残してカットを施すという、究極に高度な技巧を凝らしたこの作品。クリアクリスタルにもさらに細密で見事なカットが施され、スカラップ(貝殻)形にかたどられたフット部分はかつてニコライ2世がバカラに注文した歴史的なグラスを思い起こさせます。デカンタの上に配された蓋は、M.O.F.(フランス最優秀職人)により吹き成形され、こちらもカット装飾で埋め尽くされています。

このエクラ・ド・ルミエール デカンタは、マハラジャジャガジット・シンの特別注文により1908年に制作されたテーブルサービスを元に復刻制作されました。王にふさわしい気品を持ち、素晴らしい宝石のコレクターであったこのマハラジャは、フランスの芸術を愛好し、自らのためにヴェルサイユ宮殿のレプリカの建設を依頼したほどです。

まばゆいばかりのこの作品は、純粋なクリスタルの美しさと何世代にもわたって継承されてきたさまざまな制作技術が凝縮され、バカラのみが形にできる、時代を超えた傑作と言えるでしょう。

ルフレ・グラフィック デカンタ

比類のない光を放つバカラクリスタルは、それを実際に使い、誰かと共有するとき、より輝きを増します。

皇帝ナポレオン3世の治世以降、フランスの美食文化はさらに洗練され、美食家たちはこの作品のような、白ワインを供するために特別に作られたデカンタなどを好んで使うようになりました。


この作品は19世紀後半に制作されたオリジナルを元に復刻制作されました。特徴的なスレンダーシルエット、そして鮮やかな青いクリスタルがクリアクリスタルに被せられ、その上から施されたフラットカットによって描かれたアーチとブルーのラインが魅力的なシルエットを描きます。中に入れたワインはクリアクリスタルの面と底に施された24枝のスターカットによって美しい輝きをまといます。そして、たとえワインが空になったとしても、このデカンタには特別な一滴が残されているかのように、蓋のクリアクリスタルの中にはブルーの滴が閉じ込められているのです。

この最後のカラーのタッチによって、バカラにとってクリスタルが素材以上に特別な意味を持つ事を思い出させてくれます。それは生きる歓び、祝祭の芸術を体現しているのです。

クリスタルは、最高のサヴォアフェールを必要とする生きた素材であり、その制作に正確さと専門的な技術が欠かせません。いずれも制作に情熱を傾ける熟練の職人なしに完成させる事はできず、その中にはM.O.F.(フランス最優秀職人)たちも含まれます。職人たちはこれまでに開発されてきた技術や芸術性のレパートリーを惜しみなく差し出し、この機会がなければ消え去ってしまいかねないさまざまな技術の火を再燃させました。そしてこのコレクションを制作するために、代々伝わるノウハウが思いがけない方法で組み合わされます。確かな技術と確かな目という知性をどのように合わせればよいのか。ガラス吹き、彫刻、エングレイヴィングの魔術師たちはすべてを知っています。アラベスク模様をなめらかに合わせるにはそれぞれの動きを洗練させる必要があり、それには数十年の時を要します。この歴史的なコレクションの制作に彼らを招待することで、バカラは職人たちに最大級の賛辞を送ります。これらのクリエーションを生み出すためには、計り知れないほどの熟練した技術に加え、膨大なスケッチとクリスタルが必要です。オートクチュールコレクションのそれぞれのピースは、バカラが大切にしている感性、すなわち、見る者を魅了し、歓喜をもたらす歓びの錬金術師を讃えます。